IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が「DX白書2023」を公開しました。この白書は2021年に公開された「DX白書2021」の続編にあたり、前回と同様に、日本のDXの現状を米国と比較しながら解説しています。また、DX推進を加速するために求められる要素についてもまとめてあり、DXを進めるにあたって大きなヒントになりそうです。
ここでは、「DX白書2023」の概要や要点を解説します。
企業の社内DX推進については以下のダウンロード資料も参考になります。ぜひご参照ください。
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DX白書とは何か
DX白書とは、IPAが公開している日本企業のDXに関する報告書で、日米のDXの進捗状況や、DX推進への課題と対策などがまとめられています。日本企業と米国企業のDX進捗状況を比較し、日本企業の課題を可視化していることが、同報告書の大きな特徴です。
DX白書は従来の「IT人材白書」および「AI白書」を統合し、戦略の視点を加えた新たな白書です。ITとビジネスの関係がより密接になってきたため、DX推進に必要な人材、技術、戦略といった情報を総合的に提供するものとして、2021年に初めてDX白書として発行されました。
「DX白書2021」の発行後、DX推進に取り組む企業は増えてはいるものの、よりいっそうの加速が必要だとして、今回の2023年版が公開されました。「DX白書2023」は下記から読むことができます。
DXについて詳しくは、次の記事をご参照ください。
【徹底解説】DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?必要性から成功事例まで
IPAとは
DX白書を発行しているIPA(Information-technology Promotion Agency:情報処理推進機構)は、経済産業省所管の独立行政法人です。
IPAはサイバー攻撃対策、IT人材育成、DX推進などの、さまざまな取り組みを行っています。「ITパスポート試験」や「DX認定制度」などの事務局にもなっています。
DX認定制度についての詳細は、次の記事をご覧ください。
エグゼクティブサマリーとは
「DX白書2023」と同時に「DX白書2023 エグゼクティブサマリー」も発行されています。これは、366ページもある「DX白書2023」を要約し、約40ページにまとめたものです。
「DX白書2023 エグゼクティブサマリー」は下記から読むことができます。
DX白書2023 エグゼクティブサマリー|IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
DX白書2023の要旨
「DX白書2023」の第1部総論の章立てに沿って、要旨を紹介します。
1. 国内産業におけるDXの取組状況の俯瞰
全国の企業のDXの取り組みを調査し、その状況について「俯瞰図」を作成しています。俯瞰図は、「企業規模別」「産業別」「地域別」「他企業・団体協働類型別」の4種類が提示されています。「DX白書2023」には、この俯瞰図から企業が自社のあてはまる場所を確認し、DX推進に役立ててほしいといった趣旨の内容が記載されています。
なお、俯瞰図を作成するにあたってさまざまな調査結果を分析したとしており、以下のような現状を記しています。「他企業・団体協働類型別」についての言及はありません。
- 企業規模別のDXへの取り組み
大企業では4割強がDXに取り組んでいるのに対し、中小企業では、1割強にとどまっていいます。
- 産業別のDXへの取り組み
「情報通信業」「金融業、保険業」では、DXに取り組んでいる企業が5割前後と、他産業よりも高くなっています。
- 地域別のDXへの取り組み
東京23区に本社のある企業の4割近くがDXの取り組みを実施しています。一方で、政令指定都市、中核市、その他市町村と規模が小さくなるにつれて、DXへの取り組み割合が低くなっています。
DXへの取り組みは、ITと人材への投資が伴うこともあり、企業規模が小さいよりは大きい企業、地方よりも都市で進んでいる傾向になると考えられます。
2.DXの取組状況
「DX白書2021」での提示と比較すると、日本でもDXに取り組む企業の割合は増加しています。
「全社戦略に基づき、全社的にDXに取組んでいる」「全社戦略に基づき、一部の部門においてDXに取組んでいる」「部署ごとに個別でDXに取組んでいる」を合計した、なんらかのかたちでDXに取り組んでいる日本企業の割合は、2021年度の55.8%から、2022年度は69.3%に増加しました。
ただし、米国企業の77.9%にはまだ及んでいません。また、全社規模での戦略に基づいた取り組みに絞ると、割合は54.2%となり、こちらも米国の68.1%を下回ります。
DXを加速させるためには、日本企業でも、組織的な取り組みが求められます。
3.企業DXの戦略
企業DXの戦略に関連する内容をまとめたこの章では、主に次のようなことに触れています。
- 外部環境変化とビジネスへの影響評価
DXを推進する際、企業は外部環境の変化にアンテナを張り、ビジネスへおよぼす影響を念頭に入れて、戦略を策定することが大切になってきます。
外部環境変化に対する企業のビジネスへの影響と対応状況を調査したアンケート結果からは、「技術の発展」「SDGs」「パンデミック」「プライバシー規制、データ利活用規制の強化」「地政学的リスク」「ディスラプターの出現」のいずれの項目も、日本企業に比べ、ビジネスへの影響があると捉えている米国企業の割合が高く、積極的に対応しています。
「技術の発展」「SDGs」「パンデミック」3項目については、日本企業も約3割がビジネスへの影響を認識し対応をしていますが、そのほかの3項目については、影響を認識し対応している日本企業は米国に比べて半分以下程度の割合しかありません。
日本企業にもグローバルな環境変化を敏感に察知し、ビジネスチャンスと捉えるようなマインドが求められます。
- デジタイゼーションやデジタライゼーションは進んでいるが、DXは不十分
DXの取組領域ごとの成果状況を調査した結果では、デジタイゼーションにあたる「アナログ・物理データのデジタル化」や、デジタライゼーションにあたる「業務の効率化による生産性の向上」については、約80%の企業が、十分またはある程度の成果が出ていると回答しています。米国企業との差もなくなっています。
一方で、「新規製品・サービスの創出」や「顧客起点の価値創出によるビジネスモデルの根本的な変革」については、米国企業の約70%に対して日本企業は20%と少なく、DXへの取り組みが不十分であることがわかります。
- 社内での理解が重要
DXを推進するには、経営層の理解や関連部門などの協調が必要です。
経営者・IT部門・業務部門が協調できているかを調査した結果を見ると、「十分できている」または「まあまあできている」米国企業の割合は約82%なのに対して、日本企業は約37%です。また、DX関連の予算が継続的に確保されている米国企業の割合は40.4%ある一方で、日本企業の割合は23.8%と少ない状況です。
日本企業においては、DXについて社内で共通認識が形成され、協調できている状態とはいえません。全社的な理解と、継続的かつ相応の予算確保が求められます。
社内でのDXについては、次の記事をご参照ください。
企業の社内DX推進については以下のダウンロード資料も参考になります。ぜひご参照ください。
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4.デジタル時代の人材
日本企業では、DX人材の量も質も不足しています。
DX人材の量の確保についての調査結果では、人材が充足していると回答した米国企業の割合が73.4%にのぼるのに対し、日本企業は10.9%でした。また、「大幅に不足している」と回答した割合は、米国企業が2021年度調査の20.9%から2022年度調査では3.3%まで減少したのに対し、日本企業は逆に30.6%から49.6%へと大幅に増加しました。
米国企業でもDX人材の量は十分足りているわけではありませんでしたが、不足は解消されつつあるようです。一方日本では、人材不足がさらに深刻化しています。DX人材の質に関しても、「大幅に不足している」と回答した日本企業は、2021年度調査の30.5%から2022年度調査では51.7%に大きく増加しています。
人材確保のための取り組み状況としては、日本、米国とも「社内育成」がもっとも大きくなっていますが、米国企業では「特定技術を有する 企業や個人との契約」「リファラル採用(自社の社員から友人や知人などを紹介してもらう手 法)」といった多様な外部からの獲得手段も有しています。
またOJTや研修などのさまざまな人材育成について、米国企業では、会社として実施や推奨している割合がどの項目でも高く、もっとも高い「DX案件を通じたOJTプログラム」では実施と推奨を合わせると9割を超えます。
一方、日本企業では「実施・支援なし」の回答割合が、全項目で4割から7割と高い数値です。
人材確保を「社内育成」で対応しているとしながら、企業としての人材育成への取り組みは不十分といえそうです。
DX人材について詳しくは、次の記事をご参照ください。
DXを推進するために必要な人材と自社でDX人材を確保するためのポイント
また、人材育成の有効な手段であるリスキリングについては、次の記事をご参照ください。
5.DX実現に向けたITシステム開発手法と技術
DX実現に必要なITシステムや技術などについて、以下のようなことに触れています。
- レガシーシステム
日本企業では、半分以上レガシーシステムが残っている企業が41.2%もあり、まだ新しい技術を取り入れやすい状況とはいえません。
レガシーシステムを使い続けることで生じる問題については、次の記事をご参照ください。
レガシーシステムを使い続けることの弊害とは?脱却するための対策も紹介
- データの利活用
データの利活用については、日本企業は「全社で利活用している」「事業部門・部署ごとの利活用」を合わせると、米国企業よりも進んでいます。しかし「全社で利活用している」割合は米国企業よりも低く、データの利活用については「二極化する傾向がみられる」としています。
- AI技術・IoT技術
AI、 IoTを「全社で導入している」または「一部の部署で導入している」日本企業の割合はそれぞれ22.2%、23.3%です。米国企業の割合はそれぞれ40.4%、48.4%であり、米国に比べ先端技術の利活用が遅れていることがわかります。
また、それぞれの導入目的を見ると、AIの導入目的が「業務改善に関する項目」、IoTの導入目的は「保守・管理業務に関する項目」が高く、日本ではまだまだ「業務効率」のためのデジタル化であることがわかります。DXを推進するには、新しい価値創造のためのデジタル技術の活用にシフトしていく必要があります。
日本企業のDX取り組み3事例
「DX白書2023」より、DXの取り組み事例を3件紹介します。
事例1 株式会社ふくおかフィナンシャルグループ(金融業、保険業)
株式会社ふくおかフィナンシャルグループは、デジタルネイティブ世代をターゲットに「みんなの銀行」を設立しました。「みんなの銀行」は、通帳やカードはなく、口座開設からあらゆる取引がインターネット上で完結する銀行です。
またBaaS(Banking as a Service)事業では、「みんなの銀行アプリ」銀行機能やサービスをAPIを通じて非金融企業に提供することで、エンベデッドファイナンス(Embedded Finance、非金融事業者のサービスに銀行の機能を埋め込んで提供する仕組み)を実現しています。
<ポイント>
- スマートフォンだけで口座開設から取引まで完結する、完全なデジタルバンクを創設したこと
- APIを通じて他社に金融機関としての機能やサービスを提供することで、事業パートナーの参入を容易にしたこと
事例2 株式会社エクセレントケアシステム(医療、福祉)
ICTを活用した高齢者見守りシステムを、コロナ禍をきっかけに進化させた企業の事例です。
同社が運営する施設では、入居者や部屋の状況を介護記録データに集約し、状態の変化を詳細に把握してスタッフ間で共有しています。また、要介護者のケアにもデジタルを活用しています。
<ポイント>
- センサーの活用による見守りサービスであること
- デジタルの活用により要介護者のケアと介護スタッフの業務負荷の軽減を両立し、高齢化の進行という社会課題に対応していること
事例3 有限会社天女山(農業、林業)
ドローンの活用により、森林調査業務を大きく改革した企業の事例です。人手を減らしながら現地の調査時間を従来の半分に短縮することに成功しました。
大幅なコストカットと業務効率化を実現しています。
<ポイント>
- 事例の少ない林業での取り組みであること
- デジタル技術の活用で大きな業務効率化を実現していること
- 中小企業向けの補助金であるIT導入補助金を活用してDXを推進していること
DX白書2023で日本企業のDXの現状を知ろう
DX白書からは、米国に比べて日本のDXは遅れていることがわかります。
一歩進んでいる企業においても業務効率化を目的としたデジタイゼーション、デジタライゼーション止まりで、市場に新しい価値を創出するDXにまでは至っていないようです。日本の企業が生き残っていくためには、今、DXを推進していくしかありません。デジタイゼーション、デジタライゼーションに十分成果を感じている企業は、次はDXに向けた取り組みを、デジタイゼーション、デジタライゼーションにも十分取り組めていないと感じる企業は、まずはそこからスタートして、着実にDXへと進んでいく必要があります。
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